大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成5年(わ)1000号 判決

本店所在地

福岡市博多区住吉一丁目一番四号

有限会社

アイエムグループ

(右代表者代表取締役 今永修一)

本籍

福岡県嘉穂郡嘉穂町大字東畑三八五番地

住居

同県糖屋郡粕屋町大字長者原五六番地三

会社役員

今永政司

昭和二二年七月二五日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官高島剛一、同葉玉匡美出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人有限会社アイエムグループを罰金五〇〇〇万円に、被告人今永政司を懲役二年に各処する。

一  被告人今永に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社アイエムグループ(以下、「被告会社」という。)は、福岡市博多区住吉一丁目一番四号に本店を置き、個室マッサージサービス業等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人今永政司は、被告会社の実質的経営者としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人今永は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外し、借名預金を設定するなどの方法によりその所得を秘匿した上、

第一  昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七二九五万九四五〇円(別紙(一)修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同二年二月一六日、同市東区馬出一丁目八番一号所在の所轄博多税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六九万八四四三円で、これに対する法人税額が二〇万九四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七一六八万二七〇〇円と右申告税額との差額七一四七万三三〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ、

第二  同二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七八三一万四七七三円(別紙(三)修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同三年二月一四日、前記税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が九九万六三円で、これに対する法人税額が二八万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七〇四四万五六〇〇円と右申告税額との差額七〇一五万八五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  同三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億九一一万六二六八円(別紙(五)修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず、同四年二月二七日、前記税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六〇一万一五五七円で、これに対する法人税額が一六八万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七七六五万八五〇〇円と右申告税額との差額七五九七万五五〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人今永及び被告会社代表者代表取締役今永修一の当公判廷における各供述

一  被告人今永の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の同被告人に対する各質問てん末書

一  被告会社代表者今永修一の検察官に対する供述調書

一  今永直美、宇賀利行及び徳永聡一郎の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の今永直美、宇賀利行、牛嶋孝一及び秋本隆司に対する各質問てん末書

一  今永直美及び宇賀利行作成の各申述書

一  収税官吏作成の「今永政司勘定(その他所得)について」と題する査察官調査書

一  収税官吏作成の脱税額計算書説明資料

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  福岡法務局登記官作成の各商業登記簿謄本

判示第一の事実について

一  収税官吏作成の平成六年一月一七日付け脱税額計算書(自昭和六四年一月一日至平成一年一二月三一日)

一  被告会社作成の昭和64年1月1日から平成1年12月31日までの事業年度分の確定申告書一綴

判示第二の事実について

一  収税官吏作成の平成六年一月一七日付け脱税額計算書(自平成二年一月一日至平成二年一二月三一日)

一  被告会社作成の平成2年1月1日から平成2年12月31日までの事業年度分の確定申告書一綴

判示第三の事実について

一  収税官吏作成の「(有)新栄福岡勘定(その他所得)について」と題する査察官調査書

一  収税官吏作成の平成六年一月一七日付け脱税額計算書(自平成三年一月一日至平成三年一二月三一日)

一  被告会社作成の平成3年1月1日から平成3年12月31日までの事業年度分の確定申告書一綴

(法令の適用)

被告人今永の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人今永の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社について、いずれも法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状によりいずれも同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金五〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、福岡県内に六店舗を設けて個室マッサージサービス業を営む被告会社の実質的経営者である被告人今永が、右六店舗のうち風俗営業許可を取得していない四店舗の売上を除外して借名預金するなどして、三事業年度にわたり、合計五億五〇〇〇万円余の所得を秘匿し、二億一七〇〇万円余の法人税を免れたという事案であるが、逋脱額が多額に上り、逋脱率も通算で約九九パーセントと極めて高率である上、三期にわたり計画的、継続的に行われていることなどに照らすと、犯情は芳しくなく、脱税行為は申告納税制度を採用しているわが国の税制の根幹を揺るがしかねない悪質な行為であり、国民の基本的義務である納税義務を故意に免れた点において強い非難に値する。加えて、被告人今永は、被告会社の経営する店舗中四店舗については、被告人の兄である今永修一の個人名義で許可を得ていることを奇貨として、その売上を除外して本件各犯行に及んだこと、罰金前科五犯及び懲役前科一犯があることを考え併せると、その遵法精神の稀薄さは顕著であって、その刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人今永は、本件発覚後は、事実を概ね素直に認め、反省の態度を示していること、被告会社において、既に修正申告を済ませ、本税、重加算税、延滞税の大部分を納付済であり、残余についても分割払いの予定であることなど被告人らに有利に斟酌すべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮すると、被告人らを主文の刑に処した上、被告人今永については、その刑の執行を猶予し、社会内での自力更生の機会を与えるのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 鈴木浩美 裁判官 甲斐野正行)

別紙(一) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(四)

〈省略〉

別紙(五) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(六)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例